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漂う電球 [観劇]

             
             

M&O plays  プロデュース

   
『漂う電球』
          
オリガト・プラスティコVOL.3  

作:ウディ・アレン
訳:鈴木小百合
演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:岡田義徳(ポール) 高橋一生(スティーブ) 伊藤正之(マックス 父親) 
    広岡由里子(イーニッド 母親) 町田マリー(ベティ) 
    渡辺いっけい(ジェリー・ウェクセラー)

2006年9月28日(木)~10月9日(月)
本多劇場



冒頭のシーン。暗闇にぼぉっと浮かぶ電球。ポールの手の動きにつれ触れてはいないのに
魔法のように上下する電球が美しい。
マジック「漂う電球」である。


1945年のブルックリン。 貧しいアパートに住む一家。あるじは家にほとんどお金を入れずに
若い女と浮気をし、生活は妻のパートで支えられている。夫婦の間には諍いが絶えず、家庭は
崩壊寸前の状態にある。

そんな生活の中でイーニッドは幼い頃に高い知能指数を示した長男のポールに期待し、いつか
この暮らしから抜け出したいと願っている。
「ポール あなたは天才なのよ」
しかしポールは吃音と内気な性格から社会とうまく適合できないため学校にもなじめず、部屋で
マジックの練習をするのが楽しみ。弟のスティーブは悪い仲間と遊び歩く毎日。

イーニッドの後悔は若い頃に夢見た人生を実現できなかったこと。
知り合いのつてを頼って有名なエージェントといわれる男を自宅に招き、ポールのマジックを
見せるところまでこぎつけたイーニッド。
ところがエージェントだと思っていたジェリーは実際には売れない芸人のマネージャーにすぎず
しぶしぶマジックを見せることに同意したポールも結局は失敗し、一家の夢はついえてしまう。

あらすじだけを書けば救いようのない話である。
イーニッドの夢は叶わず、相変わらず厳しい現実だけが目の前に残された。


しかし、兄弟二人が自分達の部屋で「漂う電球」のマジックを練習するラストシーンで二人の
表情に希望の片鱗が見えた気がした。
原作を知らないため断定はできないけれど、そんなに悪い終わり方ではないと思った。



岡田義徳は自分の思いをうまく表現できないシャイなポールを実に自然に演じている。上手い。
渡辺いっけいも後半しか出てこないが存在感は充分。
そして重い雰囲気の中にあって広岡由理子の演技が笑いを誘い、ほっとさせてくれる。

終盤イーニッドがジェリーと心を通わせ、ダンスをするシーンは胸を打つ。
きれいだと言われて少女のようにはにかみ、一度だけ抱きしめてほしいというイーニッドの言葉
に、思い通りにゆかなかった人生と不本意ながらも向き合ってゆかねばならない哀しみとあきら
めを見た。
それはジェリーとても同じこと。人生のホロ苦さを充分に承知している二人だからこそ、つかの間
のダンスが観る者の心を打つのではないだろうか。

暗いけれども妙に気になる、そんな作品である。
 


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