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私はだれでしょう [観劇]


          

こまつ座第81回公演 『私はだれでしょう』

 作:井上ひさし
 演出:栗山民也
 音楽:宇野誠一郎
 振付:井手茂太
 出演:浅野ゆう子(川北京子) 梅沢昌代(山本三枝子) 前田亜季(脇村圭子)
     大鷹明良(佐久間岩雄) 北村有起哉(高梨勝介) 川平慈英(山田太郎、他)
     佐々木蔵之介(フランク馬場)
 ピアノ演奏:朴勝哲
 2007年1月22日(月)~2月25日(日)  紀伊國屋サザンシアター



井上ひさしの新作です。
新作は遅れると定評(?)のある井上さんなので念のために前半は避けたのですが、
それでも初日が二度延期されるという事態になりました。


昭和21年7月から22年11月までのNHK放送会館2階の脚本班分室兼放送用語調査室。
当時のNHK放送会館はGHQに接収され、CIE(民間情報教育局)の監視の下で放送を行って
いました。
その頃はラジオが国民の娯楽の中心であり、その中でも「尋ね人の時間」は戦争でバラバラに
なった大切な人の手がかりを探す番組として多くの人たちが耳を傾けるものでした。
寄せられた手紙の中からこれはと思うものを選び出して原稿にして放送する。担当者は元アナウ
ンサーの川北京子(分室長)と山本三枝子、スタッフの脇村圭子の三人で彼女たちは「ラジオの
力」を信じつつ誇りをもって放送を続けています。

そんなある日分室に山田太郎と名乗る男が現れます。
「私を探してください。私はだれでしょう。」 
彼はサイパンで捕虜になり復員してきたのですが、それまでの記憶をなくしていました。
英語が話せて剣道・柔道に秀で、変装にも長けている。驚異的な記憶力を持ち錠前もたちどころ
に開けてしまう。おまけにタップダンスも上手いという不思議な人物。
太郎をきっかけに尋ね人の時間に「私はだれでしょう」のコーナーができ、ここから話は大きく
動いて行きます。

番組の反響で自分を取り戻して行く太郎を見守る間に、分室に関わる人たちが『私はだれ』
と自らに問いかけ始めます。

弟の死がきっかけとなってこの番組を始めた京子にとって「尋ね人の時間は私の命」
日本とアメリカの国籍の間で悩みながらも飢える日本の子供のためにできることを探り続ける
CIEの担当主任で日系二世のフランク馬場。
組合活動に没頭しつつも自分達はGHQにうまく利用されているのではと懐疑心を抱きはじめた
組合書記の高梨。
生活のためとはいえ勤務中に内職に精を出す自分を省みる佐久間。
お給料の安さを埋め合わせるための脚本応募に熱心で仕事がおざなりになっている三枝子。
やはり生活のために初心を忘れ始めていると気づいた圭子。

民主主義の時代、だれもが自由に言いたいことが言える時代になったと言われながらも、CIEに
よって放送原稿の検閲が行われている現実がありました。
多くの手紙が届いているにもかかわらず、尋ね人の時間に原爆に関する放送をすることは禁じら
れていました。
「検閲を受けない自分達の言葉で広島と長崎のことを尋ね人の時間に放送したい!」
立ちはだかる鉄の壁を少しでも溶かそうと京子を中心に行動を起こす七人。
そして一度きりと覚悟した放送が実現した後に待ち受けていたのはやはり厳しい現実でした。

 強い者はいつも力で押してくる。
 弱い者はぶつかってはじきとばされて負けてしまう。
 負けて負けて石になってひとつひとつ積みあがる(大意)

劇中で歌われるいくつかの曲の中でこれが一番心に響きました。
こういう時代があったことを知る人はもう少ないでしょうが、忘れてはいけないことだと思いました。
劇中の高梨のせりふ「私はだれであるべきかを考えたいと思います」
これは時代が変わってもだれもが自分に問いかけていかねばならない言葉ではないでしょうか。



この日は二度目の観劇でした。最初は初日からあまり日がたっていなかったので、固さが感じ
られたのですが3週間以上経って出演者同士の「間」がずいぶんよくなっているのに驚きました。

凛とした印象の浅野ゆう子は役柄に合っていてよかったです。
そしてアテ書きだという川平慈英。彼なくしてはこの作品は成立しなかったかも。
そう思わせるくらいイキイキした人物像になっていました。
北村有起哉は相変わらずチャーミング、前田亜季は初見でしたが声がよく通って歌もよかった。
若い女性らしいひたむきさが伝わってきました。
梅沢昌代は笑い担当の安定した演技、大鷹明良も上手い。
佐々木蔵之介目当てだったのですが、やはり歌と踊りはビクビクしながら観てました^^
(井手さんの振り付けがあまり好きじゃないもので)
こまつ座は「小林一茶」以来二度目ですが、安定していますね。
ホンの遅れは決してよくはありませんが、見応えのある作品になっているのではないでしょうか。

 

 

        

今日はめずらしいものを。  手作りの「栃もち」です。
知人の親戚の方が岐阜から毎年送ってこられるそうで、おすそ分けとしていただくようになって
3年目。この時期になるとひそかに楽しみにしています。

栃の実はアク抜きをするのがとても大変だそうで、今では作る人が少ないと聞きました。
独特のクセのある味ですが、さっと焼いてお醤油を少しつけて食べています。
焼くととろ~りとしてとても柔らかになります。
市販のものにはない味わいで、作って下さった方のことを思いながら今年もいただきました。
感謝。


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